ドラマチックな河川敷

河川敷でバンド練習をやっていると、ときどきドラマチックな出来事がおこります。
そのちょっとしたドラマを書き綴っていきます。
基本的に実話ですが若干の脚色をしたものもあります。
その1 【ひとりの観客】

 気のいい休日はドラムの個人練習に河川敷に出かけます。通行人の方や散歩の方たちから声をかけられたり、見学や拍手をいただけることがよくあります。下手な演奏でも拍手をいただけると嬉しいもので、緊張し舞い上がってしまいます。一人二人のパチパチでこれほど嬉しいのですから、満席の武道館でキャー付のパチパチなら、私、間違いなく昇天します。

 んな私でも最近では見学や拍手に慣れてきて比較的心が動揺することは無くなったのですが、バンドのメンバーは見学や拍手にあまり慣れてはいないのですね。どうして見学や拍手に慣れていないのかというとですね、バンド練習の時は見学者があまりいないからです。バンド練習ですと最低3人とか4人の多勢ですので単独の通行人は多勢に無勢で声をかけにくく見学しにくいのです。たまに見学の方もあるのですが、遠くから見ているだけであまり近づいて来ません。だからバンドのメンバーは見学や拍手にあまり慣れてはいないのですね。

 れてはいないためにちょっとしたドラマが起こります。

 る日のこと、高校時代の同級生1人をゲストに迎え4人でバンド練習をしていました。そこへ珍しくも観客が現われます。
音が聴こえてやって来たのでしょう。正確には観客ではなく野次馬ですね。12〜13才ぐらいの少女です。サッカーボールを手にしています。最初は会場右脇の少し離れた所でボールを蹴って遊んでいました。しばらくするとその少女がボールを蹴りながら近付いてきました。つまりボールの行方を近づく理由にしていたと思われます。頭がいいです。多勢に無勢で近づきにくいうえ、得体の知れないオッサン連中ですから、簡単には近付きにくいですよね。少女はボールのおかげで会場のすぐ横までたどり着きしばらく聴いていました。


 分後、偶然なのか意図的なのかは判りませんがボールがタープテント内、いわゆるこの場合「ステージ」ですね、ステージ内にボールを転がしてきたのです。‥‥もとい、ボールが転がってきたのです。先述の同級生ゲスト奏者の彼が入ってきたボールに少し驚きながらもそれを拾い少女に渡しました。その時に「どうぞ」とか「ありがとう」などの一言二言の会話があったようです。その一連の作業により、少女と私たちは全くの他人ではなくなったわけです。 挨拶を交わした知り合いとなったわけです。

 でたく知り合いとなった少女は次の瞬間、オッサンたちの心を乱す大胆な行動にでます。
 女はステージ正面のすぐ前にやってきて、ちょこんと座り込みました。なんとステージにかぶりつきの観客になったのです。正面に座り込み真直ぐにこちらを観ています。いえ、正しくは凝視しています。そこで慌てたのはオッサンたちです。

 られることに慣れていないバンドのメンバーはその視線に緊張し動揺しながら演奏を続けています。ステージ後方のドラムスの私はギター奏者3人の防護壁があるので彼女の視線の被害は少ないのですが、彼ら3人はまともに彼女の視線の放射能を浴びています。

 コリともしない彼女の視線はオッサンたちを観察しています。いわゆる研究ですね。とうとう研究対象のモルモットと化してしまった彼らの後ろ姿が乱れます。あきらかに動揺しています。

 ターのフレットを必要以上にチラチラみたり、脚のリズムが貧乏ゆすりに変わったり‥‥。そのため演奏ミスが頻繁に起こります。ミスする度にモルモットは後ろを振り返り私の方を見ます。それが私へのミスの責任転嫁なのか彼女の視線をかわすためなのかは判りませんが私に何かを訴えているようです。

 あそれでもなんだかんだでなんとか一曲が終了しました。数秒の空白の後、彼女がパチパチと拍手をしました。静かにゆっくりとまるで神社で参拝をしているように。

 定外の拍手にモルモットたちはいっぺんに緊張が緩みます。研究者と思っていた人が実は優しい観客だった訳ですからね。無理もありません。望外の喜びと緊張の急激な緩和のためか、モルモットたちは思いっきりシッポを振りはじめました。

「この曲、聴いたことあるの〜?」
「知っている曲?」
「こりゃ〜ポニョをやらにゃあいかんなあ。」

 ちろん70年代の歌謡曲なんてその少女が聴くわけも、知るわけもなく、またオッサンたちは「崖の上のポニョ」なんて歌詞はおろかメロディーさえもはっきり知りませんよ。オッサンたちは嬉しくて嬉しくて、すっかり舞い上がっているのでした。

 うすぐ秋がやってくる2009年の晩夏の午後。オッサンたちは、満面の笑顔で思いっきりシッポを振り続けるのでした。

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